知っていると作品を見るのがもっと楽しくなる アートの材質・技法【写真編】

2022年も、全国で多くの芸術祭や国際美術展などの大規模アートイベントが開催されていて、どこに行こうか迷いますよね。規模が大きいアートイベントは、数日がかりでないと巡れなかったり、車がないと移動が難しかったりすることも。
そんな中、岡山県岡山市で開催されている「岡山芸術交流 2022」は、新幹線の岡山駅から徒いて1日でまわることができるコンパクトさながら、国際的に評価の高いアーティストの作品を、美術館とは少し違ったたシチュエーションで楽しめる国際現代美術展なんです
この記事では、「岡山芸術交流2022」の様子をレポートするとともに、1日でまわるモデルコースを地図と合わせてご紹介します。
各地で様々なアートイベントが開催されていますが、「岡山芸術交流」のユニークなポイントは以下の3点。
今年で3回目となる岡山芸術交流。アーティスティック・ディレクターは、第一回はリアム・ギリック、第二回はフランスのピエール・ユイグ、そして第三回の今年はリクリット・ティラヴァーニャと、世界的に著名なアーティストが務めています。
特に特徴的なのが展示される作品。作品の外観よりもアイディアやコンセプトを重視し、目で楽しむよりも頭で楽しむ「コンセプチュアル・アート」の作品が中心に展示されています。
前川國男の手がけた「林原美術館」や「天神山文化プラザ」、岡田新一による「オリエント美術館」など、近代名建築が展示会場となっています。また、現代アート作家と日本人建築家がタッグを組んでデザインした宿泊施設を岡山に誕生させるプロジェクト「A&A」も会場付近で展開。作品とあわせ、新旧の様々な建築を楽しめます。
では、岡山駅からめぐって行きましょう。会場は10箇所。(本文中のアルファベットは、公式の地図にある会場のアルファベットを記載しています。)
朝一番には、8時から鑑賞可能な「岡山天満屋」へ。岡山駅から徒歩20分ほどですが、ここでは路面電車の「岡山電軌東山線」で「県庁通り」駅まで乗ってしまうのもおすすめです。
こちらは無料で見られる会場。日本人アーティスト・片山真理の写真作品が百貨店のショーウィンドウに展示されています。両足が義足で、左手が「カニのよう」な2本指の作者のセルフポートレート作品です。
義足にハイヒールを履き、その選択が「特別なものではない、ただの、あなたにとって大切な、選択の一つになってほしい」ことを伝える「ハイヒールプロジェクト」の作品は、一見すればブランドのウィンドウ広告にも見えるほどスタイリッシュでありつつ、強い意志も伝わってくる作品です。
こちらから、旧内山下小学校へ移動する途中には、路面電車の「城下」駅付近で、岡山芸術交流関連プロジェクトの「A&C (Art & City)」のパブリックアート3点を見ることができます。
続いて、最も大きな会場の旧内山下小学校。こちらでは、鑑賞時間を90分から120分程度見ておくと良いと思います。
ここはチケットが必要な有料展示。こちらでは、当日券の購入も、前売りからチケットへの引き換えも可能です。
校舎内や校庭、プール、体育館と、校内の各所で作品が展開されています。
まず、強いインパクトを与えるのは、プールの中に寝そべる巨大なクマのぬいぐるみ。プレシャス・オコヨモンの≪太陽が私に気づくまで私の小さな尻尾に触れている≫です。鑑賞者はプールの中に入って作品に触れることもできますが、一見かわいらしいクマですが、レースの下着1枚で無抵抗な姿に触れているうち、複雑な感情を感じるかもしれません。
校舎内や校庭内の各所に展示された映像インスタレーション作品は、アジフ・ミアンの≪無煙の火≫。黒いプラスチックシートを被り、本来観客からは見えないダンサーを赤外線サーモグラフィで撮影した作品は、幽玄な雰囲気を醸し出しています。
母親が岡山市出身で、この内山小学校の卒業生でもある島袋道浩は、後楽園脇の旭川にある白鳥の足こぎボートに着目。このボートで川を下り、2012年には旭川の河口まで、2014年には瀬戸内海の犬島まで行く映像作品≪白鳥、海へゆく≫を展示。島袋自身の人生と照らし合わせた試みながら、大海をゆく白鳥のボートの姿には共感を覚える方も多いのではないでしょうか。
体育館には、曽根裕による≪アミューズメント・ロマーナ≫というジェットコースターをモチーフにした作品も。こちらは、大人も滑って遊ぶことができるので、ぜひ体験してみてくださいね。頂上は下から見上げるよりも高く感じ、スピードも出ます。大人になってから、こんなふうに遊具でドキドキする体験って、あまりないですよね。
校庭にはキッチンカーも。今回のアーティスティック・ディレクターのリクリット・ティラヴァーニャは、「リレーショナルアート」の第一人者。1990年代にパッタイやタイカレーを振る舞った作品が有名ですが、今回、彼と地元の老舗飲食店がコラボレーション。岡山のソウルフードであるえびめしを活かしたカレーが食べられます。
この会場の付近には飲食店も複数あるので、このあたりで少し早めのお昼を済ませてしまうのも良いかもしれません。
また、校庭に植えられた芝生もリクリット・ティラヴァーニャの作品のひとつ。ぜひ、校舎の2階から覗いて見てくださいね。
旧内山下小学校の向かいにある石山公園には、梁慧圭(ヤン・ヘギュ)の煉瓦彫刻であり、ベンチにもなる作品≪不透明な風ー6つの折り畳み式三葉椅子≫が設置されています。
こちらには、岡山芸術交流2019の作品である、アーティストユニット メリッサ・ダビン&アーロン・ダヴィッドソンの ≪Delay Lines≫ も。ガラスケースの中で、人体の器官を模したような装置によって旭川の水が循環し続けています。
「林原美術館」は、岡山の実業家、故・林原一郎のコレクションから生まれた美術館で、刀剣・武具・甲冑・絵画・書跡・能面などを収蔵しています。
こちらでは、アート・レーバーとジャライ族のアーティストたち、王兵(ワン・ビン)の2作品が展示されています。(会期中、展示室では「令和の名刀・名工展」という特別展が開催中ですが、こちらは別料金です。)
ミニシアター系の映画を上映する小型シアターの「シネマ・クレール丸の内」では、毎日12:05より、アピチャッポン・ウィーラセタクンの監督作品や、本人が選ぶ短編集が上映されています。
上映時間は90分〜140分程度と作品によって異なるので、上映スケジュールをご覧ください
なお、こちらは建物自体もパブリックアート作品となっています。
オリエント世界の考古・美術・民俗資料を専門的に収集・保存する「岡山市立オリエント美術館」では、収蔵作品の展示とあわせて、本展の作品が展示されており、両方の展示をあわせて楽しむことができます。
リジア・クラークの作品は、蝶番のついた金属板を動かしてつくる立体作品。≪花≫ ≪無脊椎動物≫ などのタイトルがつけられ、工業製品のようでありつつも、どこか生物のような印象を与えます。
また、江戸時代前期の僧侶で、国内各地を歩き渡りながら生涯にわたって10万躯以上の仏像を制作した円空による仏像も複数展示されています。美術館の収蔵品とは時代も場所も大きく異なるものの、素材を活かした作品の素朴さの魅力など、通じるものも感じられてくるのではないでしょうか。
前川國男建築の岡山県天神山文化プラザでは、デヴィット・メダラによる立体作品や、アブラハム・クルズヴィエイガスによる、桃太郎をモチーフにした作品が展開されています。
こちらの会場の地下空間では、今回の展覧会に参加するアーティストの小作品が一同に展示されています。各作品を見るためのヒントになるかもしれません。
860年創建の歴史ある神社「岡山神社」の境内でも作品展示が。
境内の稲荷神社の中には、梁慧圭(ヤン・ヘギュ)の ≪波打つ襞のある霊魂長紙ー魅惑的な網目#115≫ ≪波打つ襞のある霊魂長紙ー魅惑的な網目#116≫ を展示。祭祀用の紙製の祭具から着想を得たというコラージュ作品からは神聖な雰囲気も感じられます。
こちらの境内には、常設の「A&C (Art & City)」作品である、ダン・グラハムの ≪Wood Grid Crossing Two-way Mirror≫ も見ることができますよ。
日本三名園の一つ、「岡山後楽園」の中にある観騎亭には、デヴィッド・メダラの作品が展示されています。岡山後楽園への入場には別途入園料が必要ですが、鑑賞券の提示で団体割引になります。こちらの会場は16:00までと終了時間がやや早いので、鑑賞される際にはご注意ください。
最後に、後楽園から月見橋をわたって岡山城へ。岡山城天守閣は2021年6月から大規模改修のために休館中で、2022年11月にリニューアルオープン予定です。
こちらの「中の段」には、池田亮司の作品が展開されています。宇宙の地図やタンパク質の分子構造など、実態を知覚できない膨大なデータを映像と音に変換して知覚する可能性を探るアートプロジェクトです。屋外で大画面かつ大音量で展開される迫力の作品。鑑賞可能時間は16:00-21:00と、他の作品群とは異なるのでお気をつけください。
徒歩で巡ることのできる「岡山芸術交流 2022」。徒歩で散策すると、街もよく見えますね。分かりやすい作品ばかりではありませんが、歩きながらじっくりと考えながら見るのもいかがでしょうか?
タイトル:僕らは同じ空のもと夢をみているのだろうか 公式HP:https://www.okayamaartsummit.jp/2022/ 会期:2022年9月30日(金)- 11月27日(日)[51日間] 開館時間:9:00~17:00(最終入場は16:30まで) 休館日:月曜日(10 月10日(月・祝)は、翌日の火曜日休館) 展示会場:岡山市内10カ所 アーティスト:28組