知っていると作品を見るのがもっと楽しくなる アートの材質・技法【写真編】

浜松町駅からモノレールで一駅の天王洲アイル。運河沿いにオシャレなお店が並ぶこのエリア、実は、気軽に見られるたくさんの現代アートのパブリックアート作品があるんです。
この記事では、「天王洲アイル」エリアで見られるパブリックアートを、マップ付きでご紹介します。
「東京モノレール」と「りんかい線」の2つの駅があり、実は品川駅からも徒歩圏内のエリア。運河沿いは気持ちよく散歩できるボードウォークがあり、その周辺にはオシャレなカフェやレストランも多数。
そして、多数のギャラリーやミュージアムのほか、大型の展覧会が開催される広いイベントスペースもあり、現代アートを始めとした様々なアートを楽しめる街です。
もともとは江戸時代に築かれた「第4お台場」をベースに開発された島で、倉庫や物流センターが並ぶ地域でしたが、2010年代以降、倉庫をリノベーションしたおしゃれなレストランやギャラリーなどがつくられていきました。
2019年からは毎年「TENNOZ ART FESTIVAL」というアートイベントが開催され、イベントで展示された屋外アート作品を中心に、現代アートのパブリックアート作品が多数設置されています。
それでは、東京モノレールの「天王洲アイル駅」から、作品をめぐってみましょう!
東京モノレール 天王洲アイル駅 の中央口改札を出てすぐに迎えてくれるのがこちらの作品。おもちゃやスニーカーといった雑貨から、交通標識や灯台まで、みんなくったりとリラックスしています。
アーティストコレクティブ「SIDE CORE」にも参加する松下徹による壁画は、「眠らない街東京」で、普段働いてる建物や機械たちが休日に眠ってる様子を描いた絵画。ゆったりとした休日のアート散歩のはじまりにぴったりな作品ですね!
天王洲アイル駅の南口を出た付近には、こちらの作品をあしらったデザインマンホールもありますよ。
壁画が描かれた通路を渡って、天王洲オーシャンスクエアへ。その広場の植え込みにちょこんと座る可愛らしいキャラクターは、スマートフォンを使ってグラフィックを描画するアーティスト COIN PARKING DELIVERY(コイン パーキング デリバリー)による「白井さん」の立体作品です。
白井さんのモデルは、古代の生物であり過去の象徴の「恐竜」と未来の象徴の「宇宙人」。この作品で白井さんが掲げている「松の木の種」は、モノも文化も輸入しながら街をつくりあげてきた輸入大国・日本の輸入文化を表現しているそうです。
大通りを渡り、天王洲パークサイドビルの広場に佇むのは、ほぼ等身大の人物像。存在感のある大きさなのに、透けているようにも見える不思議な像です。制作者である 加藤智大は、金属加工会社での勤務を経て、作家活動をスタートしたという経歴を持つアーティスト。
本作は、匿名の人物の輪郭を鉄線の反復で表現した「anonymous」のシリーズの作品。リアルな存在感と、作品の周りを動くと立体的な線の重なりで生まれる複雑な動き、そして、金属の表面への風景の反射と、線の合間から見える奥の風景で、見る位置によって雰囲気が変化して見える不思議な作品ですね。
では、交差点を渡って、東京モノレール 天王洲アイル駅の南口の方に行ってみましょう。
東品川清掃作業所のシャッターに描かれた、ぐるぐると吸い込まれていきそうなイメージ。ビビッドな青とオレンジの色遣いと、ダイナミックな渦の絵画は、目にも楽しい作品です。視覚的なしかけを利用したトリックアートのような作品を多く手がける吉野もも。これまでにも、建物の壁面や地面などに手を加え、その場を変容させるような作品を描いてきています。
本作品は、運河沿いのごみ処理場跡と埋立地の立地から、「循環」というテーマを想起したのだそう。カラフルで視覚的な面白さとわくわく感の詰まった作品ですね。
≪巡り循る≫のすぐ隣、京浜運河に面した東品川2丁目 桟橋待合所が、水辺にも合う青いストローク(筆跡)で埋め尽くされています。ブラジルで活躍するグラフィティアーティスト ラファエルスリクスの作品です。
天王洲という都市と水辺の自然の調和をストロークに込めた作品。複数の青色のストロークが何層にも重なり、水の奥行き感が感じられますね。
さて、ここからはボードウォークのある天王洲運河の方に歩いていきましょう。
再び天王洲オーシャンスクエアを通り抜けて、目の前に見えるのが東横INN。その入り口に立つのは、巨大なゴミ箱…?!
作者の三島喜美代は、セラミックで新聞や段ボール箱、マンガ本などをリアルに表現した作品を制作するアーティスト。高度産業化社会で増え続ける「ごみ」や氾濫する「情報」といった社会の課題を表現しているといいます。2022年で90歳になる現在も、現役で制作を続けている作家です。
段ボールのようなごみが積み上げられているというのは、現実的で美しくもない風景ですが、それが巨大化すると、現実感がなく面白い光景に見えてきますね。
ここから、運河の方に歩いてみましょう。
運河に面した心地よいボードウォークにあるのが、鉄を使った作品を制作するアーティスト 日比淳史による作品。さび付いた鉄のオブジェは、機械的な雰囲気を感じさせる一方で、近づいて見ると、モチーフである「オウムガイ」の形も。1つの作品の中で、生きものと無機物の両方のイメージが重なりますね。夜には、ライトアートにもなる作品です。
つづけて、ふれあい橋と海岸通りをつなぐ200メートルほどの小径「ボンドストリート」を歩いて行ってみましょう。
倉庫をリノベーションし、水上テラス席もある醸造所併設型の人気のレストラン「T.Y.HARBOR」の向かい、寺田倉庫T33ビルの壁面に描かれた巨大な壁画は、イギリスのアーティスト・ルーカス・デュピュイによるもの。
幼い頃に「難読症」を患った作者が、「文字を文字として認識できないと、この世界はどのように見えるのか」をテーマに制作した作品です。描かれた形状、あなたは何に見えますか?
縞模様で可愛らしい、だけどとても巨大なネコさん!そんなネコさんが、こちらにカメラを向けています。パリを拠点に活動するグラフィックアーティスト、ダミアン・プーランの作品で、かつて「浅間国際フォトフェスティバル」で発表された作品です。
もともとは、下に立つとネコさんに写真を撮ってもらえる仕組みの作品。現在は撮影の機能はありませんが、普段ついついネコさんを見たらカメラを向けてしまうところ、逆にネコさんからカメラを向けられる…ちょっと不思議な体験ですね。
東横INNの立体駐車場に描かれた巨大な壁画は、カリフォルニア生まれ、バルセロナ育ちのアーティスト ARYZ(アリス)の作品。
鈴木春信の浮世絵を題材に描かれた作品。もとの浮世絵作品にも川が描かれており、運河のほとりという立地にもあった作品です。とても大きな作品なので、新東海橋を渡り「テレビ東京天王洲スタジオ」の付近から観ると全体像が見やすいですよ。
通りをはさんで向かいのフェンスに描かれたカラフルなグラフィティは、ストリートアーティスト DIEGOの作品です。天王洲の海辺や、行き交う人々の足、ビル群といった東京/ 天王洲のイメージをモチーフとして描かれ、さらに、これらのイメージはグラフィティの文字にもなっています。
こちらの通りには、この作品のデザインマンホールも。
なお、この付近にある「WHAT CAFE」では、若手アーティストの現代アート作品を展示・販売する展覧会が開催され、コーヒーを飲みながらゆったりとアート鑑賞を楽しむこともできますよ。
ボンドストリートからさらに1本運河沿いへ。ボードウォークには、心地の良いカフェや、おしゃれな水上ホテルも並びます。
運河の向こう側にあるパナソニック東品川ビル2号館の壁に見えるのは、ポーランド生まれのアーティスト Stachu Szumski(スタフ・シュムスキ)による壁画。こちらは、漢字の原初形態である「甲骨文字」を題材としているそうです。
ボードウォークから大通りに突き当たる位置の仮囲いに描かれているのは、アーティストでありスケーターでもあるキンジョー(kinjo)による壁画。眼をモチーフにした、カラフルでコミカルなイラストが多数描かれ、楽しい気分で通りを歩いて行けます。
では、最後に、大通りを渡って「天王洲公園」のエリアへ。
この付近には、コレクターの所有するアート作品や、建築模型を展示する「WHAT MUSEUM」や、伝統的画材から最先端の画材までが揃う「PIGMENT TOKYO」などがあります。
天王洲公園車庫に描かれているのは、神奈川県藤沢市出身のアーティスト Keeenue(キーニュ)による壁画。楽器を演奏したり、ダンスをしているような動きのある手がモチーフになった、なんだか音楽が聞こえてきそうな楽しい作品ですね。
最後に、天王洲公園内にある倉庫の壁面に描かれているのは、滞在制作する場所で採取された土と水を使用し、動物や植物を描く「泥絵」などの作品で有名な淺井裕介による壁画。この作品は「泥絵」ではなく、青と白を基調とした塗料で描かれた巨大な壁画。青空にも映えますね。
遠くから見ると、一体の巨大な動物のようなモチーフ。近づくと、たくさんの小さな動物や植物たちが描きこまれています。距離によって見えるモチーフが変化してくる、隅々まで楽しい作品です。
なお、この天王洲アイル駅付近にはこの作品のデザインマンホールがあり、また、ボンドストリート沿いの「WHAT CAFE」では、そのマンホールカードをもらうこともできますよ。
天王洲公園には、こうしたアート作品のほかにも、クジラをモチーフにした滑り台や、クジラのイラストを描いた水門、ミッフィーの花壇などもあり、こちらもあわせて見るのも楽しくておすすめです。
無料でたくさんのパブリックアートが見られる天王洲アイルエリア。途中でご紹介した「WHAT CAFE」や周辺の多目的ホールでは、若手の現代アーティストを紹介する無料の展覧会が定期的に開催され、また、20軒近くのギャラリー・アートスペースの入居する「TERRADA ART COMPLEX」もあり、こちらでも無料の展覧会を多数楽しむことができます。
天気の良い日には、天王洲アイルでアート散歩しながら、お気に入りの作品をみつけてみませんか?
文・写真:ぷらいまり。